くつべら

①YくんはいつもMyくつべらを持参している。
かばんの中にたいていは忍ばせているが、ときどき「俺のくつべら知らん?」と言って探している。

先日のまっくろ文化祭のときも、Yくんは「くつべらどっか行ったー」と言っていた。

その日、文化祭のお手伝いに来ていたお母さんたちは、
ピザ、カレー、ポップコーンなど食べ物に関する作業を、
キッチン、食堂、テラスルームとつながる導線でてんやわんやしていた。
そこで発見されたくつべら。
「これ何?」「くつべら?」
「まさか、そんなわけない」

この導線上でくつべらはありえない。
そもそもまっくろにくつべらはありえない。

・・・と思われ、
次の日、Yくんのくつべらはキッチンツール立ての中から見つかりました。
これで野菜を炒めていないことをいのります。

②Yくんの今のくつべらは二代目?
前もってきていたのは、持ち手部分が馬の彫り物になっていて、民芸品のようだった。

車に乗ってみんなで出かけて行ったとき、
Yくんが「俺のくつべらがなくなった。車の中に落としたかも。見といてくれる?」と言われて、
初めてYくんのくつべらの存在を知った。

でもこのとき実は私は、先のお母さんたちの反応と同じ、
(くつべらて・・・くつべら持って来てるの?なんのために・・・?)
心の中で、???だらけだった。

数日後、車の中に落し物をしたかも、と別の子に言われ、
シートの下に手を伸ばしてみると・・・
その探し物に加え、Yくんのくつべらも見つかった。
馬の彫り物の見事なくつべらが。

このときもまだくつべらをYくんがなぜ持ってきているのか、私は理解していなかった。
Yくんがこのくつべらを気に入っていて、大切にしていて、ないと困ることだけを理解した。

Yくんの二代目のくつべらは、シンプルな形で持ち手の端には穴があいてヒモが通してある。
「ザ・くつべら」という形そのものなのだが、
くつべらの存在を信じない人には、木べらと思い込むしか脳が納得しないのかもしれない。
私もやっと、Yくんはくつべらをくつべらとして使うために持って来ていることを理解した。

その通り、縁側でYくんはMyくつべらを使ってスニーカーを履き、くつべらをリュックにしまうと、
「じゃあまた明日!」と帰って行った。

by スタッフ寺本

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